群馬県太田市の警察・入管による大人数合同捜査が行われた現場を見に行った

群馬県太田市の警察・入管による大人数合同捜査が行われた現場を見に行った

 2020年11月のある晴れた日、私たち、Xさんと私は、群馬県の隣県である某県某ターミナル駅から群馬県太田市の新田上中町の事件現場に自動車で向かった。10月下旬、百数十人もの警察関係者、入管関係者が太田市新田上中町の住宅2棟を捜索、2棟に住んでいた19人のベトナム人のうち13人のベトナム人が逮捕されたという事件があり、その事件の現場を見に行ってみようと思ったのだ。
 某県某ターミナル駅付近の市街地を抜けると、道路沿いに建てられたホームセンターや家電量販店がぽつんとぽつんと現れるぐらいで、道の周囲は農地や宅地、小規模な会社や商店、工場の建屋、ところどころにチェーン店やコンビニ、大衆食堂があるぐらいの変わり映えしない風景が続く。
 2、30分ほどの移動で群馬県に入り、事件の現場にだんだん近づいてきた。農地や宅地に囲まれた風景の中を車で走る。やがて閉店したらしき大衆食堂の看板が見えてきた。手前にある小さい倉庫か工場の建屋のような建物の脇を通り過ぎ、閉店した大衆食堂を通り越して、事件現場に到着した。大衆食堂の前は駐車場として使われているようで、数台自動車が止めてあった。道を隔てた場所は農地になっていて露地栽培の野菜が植えられているようだ。露地栽培だけではなく、小規模なビニールハウスも散見され、ビニールハウスを利用した野菜栽培も行われているようである。やや離れたところには工場らしき比較的大きな建屋が見えるものの、周囲は農地や宅地に囲まれたところで、暖かい日射しが射す時間帯でもあり、のどかな光景であった。

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写真01 群馬県太田市、警察・入管による大人数合同捜査が行われた現場1

 逮捕されたベトナム人が住んでいた住宅は、同じような造りの2階建ての住宅が4、5棟立ち並ぶ一角にあった。4、5棟の住宅は、どの棟も同じような外見で、道路からその奥に向けてだいたい等間隔で建てられているようだった。どの住宅に逮捕されたベトナム人が住んでいたのかは確認できなかった。

 だいぶ前に近くにある会社が社員を住まわせていた元社宅か何かが不要になって売却されたのかもしれない、というようなことをXさんと話し合った。築30年ほど経過しているように見える物件ではあったが、造りは比較的しっかりしているようで、現在も住居として住むのには十分であるように思われた。
 近所の住人の方々や通行人の方々がいらっしゃるようであれば、お話をお聞きしてみたいとも思っていたのだが、折り悪く、人がほぼ出払っているようなときに来てしまったようだ。事件現場の住宅にまだ住んでいるであろう逮捕されなかったベトナム人の人たちや近くの住宅の方々にお話をお聞きすることも考えていたのだが、近隣の住人の方々も警察関係者の聴取やマスコミ関係者の取材などで疲れを感じていた時期だったのかもしれず、お宅のベルや呼び鈴を押してお願いしてまでお話をお聞きしようとしなくて良かったのかもしれない(と思うことにした)。
 事件現場になった2階建て住宅が立ち並ぶ一角の隣には、やや年季が感じられるものの掃除が行き届いたこぎれいな1軒の住宅があり、犬が飼われているようであった。犬に警戒される前に、Xさんと私は現場を後にしたのだった。

 

 以下、(このエントリーを公開した)11月29日の時点での事件の報道等をまとめておく。その後に事件に関する私見も述べる。

事件の概要と11月末までに判明した事実関係

事件当初の報道など

 今年(2020年)の夏、群馬県や栃木県、埼玉県、茨城県の各地で複数の畜産農家畜舎から子牛、子豚、鶏が盗まれる事件が相次ぎ、世間の注目を集めた。

 一連の事件に関しては、日本農業新聞の次の特集記事をご参照いただきたい。

https://www.agrinews.co.jp/p51972.html

いつの間に…900頭消失 浮かび上がる男女の姿 [家畜はどこへ 広域盗難を追う](上)

https://www.agrinews.co.jp/p51978.html

慎重から一変 大胆手口 [家畜はどこへ 広域盗難を追う](中)

https://www.agrinews.co.jp/p51987.html

全国を覆う “真の恐怖” [家畜はどこへ 広域盗難を追う](下)


 10月下旬、群馬県警や東京出入国在留管理局などによる大人数の合同捜査で群馬県太田市に住む十数人のベトナム人入管難民法違反等の容疑で逮捕されたことが大きく報道された。

 たった1か月ぐらい前の事件にもかかわらず(このエントリーを公開した)11月29日の時点ですでに事件を報じたニュースや記事がだいぶ削除されてしまっているようなのだが、下記は事件の報道の一例である。

https://www.sankei.com/affairs/news/201026/afr2010260006-n1.html

大量家畜盗難に関与か 群馬県警ベトナム人逮捕 2棟に19人

https://www.jomo-news.co.jp/news/domestic/society/250016

住宅から冷凍鶏肉30羽分、群馬 ベトナム人13人逮捕

 実は、その1、2か月前ぐらいから、フェイスブックツイッターなどのSNSでは、多少なりともベトナムベトナム人と関わりがある一部の日本人の間で、家畜窃盗事件の背景に盗んだ家畜を解体して流通させる在日ベトナム人の闇ルートが存在するのではないか、という真偽が定かではない情報が流れていたようである。そのような真偽が確かではない噂レベルの情報の影響もあったのだろうか、当初の大手マスコミの報道は盗難家畜を解体、流通させるベトナム人の裏ルートの摘発につながるのではないかと期待をにじませるものもあったようで、大手マスコミに情報提供していた警察関係者の思惑も大いに反映されたものだったのだろうと見受けられた。

  下記に紹介する記事は、合同捜査によるベトナム人逮捕数日後の11月1日の日本経済新聞に掲載されたもので、別件の別のベトナム人逮捕の件も合わせてまとめた状況整理も兼ねた風の記事である。

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65727630R01C20A1CZ8000/

盗難被害の豚・果物どこ?ベトナム人相次ぎ逮捕、群馬

 上記の記事は、逮捕されたベトナム人のグループが(大した量ではない)肉類や果物などを日本国内のベトナム人に発送していたことは判明した一方で、『大量の肉や果物がどこへ消えたのか、詳細は不明だ』と報じている。

ベトナム人のグループが逮捕されてから1か月経過、家畜窃盗事件との関連は不明

 逮捕されたベトナム人は13人いたようであるが、失踪した元技能実習生に加え、元私費留学生や元短期滞在の在留資格ベトナム人も含まれていた。逮捕されたベトナム人の中に豚を解体し丸焼きにしている動画や写真などをSNSフェイスブックベトナム人がよく利用しているザロというSNSではないかと思われる)に投稿していた者がいたようで、家畜窃盗事件への関与が疑われたようだ。

 実際に警察により家宅捜査された住居から冷凍された30羽前後の鶏肉が発見されたようである。鶏肉について、逮捕された13人は「近くの店で買った」、「知らない」と供述し、窃盗については一切認めていない、と報じられた。大量の豚肉や多頭の豚を解体した形跡、大量の豚肉を販売したという証拠は見つかっていないようだ。

 逮捕された13人のベトナム人うち6人は別件で再逮捕され、残る7人はベトナムへ強制送還される見込みのようであるが、家畜窃盗の容疑で逮捕されているわけではないようだ。後日、別件で逮捕された別のベトナム人グループは、居住するアパート内で豚を解体していたようであり、豚不法解体容疑者ではあるかもしれないものの、豚の窃盗に関わっていたかどうかは現時点(11月29日の時点)ではわかっていない。結局、現時点(11月29日の時点)で判明している情報によれば、10月下旬の警察と入管の大人数の合同捜査で逮捕されたベトナム人も後日他の件で逮捕された別のベトナム人も家畜窃盗の容疑では逮捕されていない。

 10月下旬の警察と入管の物々しい合同捜査は、警察関係者が盗難家畜を解体、流通させるベトナム人の裏ルートの摘発につながるだろうという見立てで行われたものだったのではないかと思われるのだが、(このエントリーを公開している)11月29日の時点で報道されている情報に基づくかぎりでは、合同捜査で逮捕された13人や後日逮捕された別のベトナム人グループが大量の豚肉、多頭の豚を解体した形跡や大量の豚肉を販売した証拠を押さえられていないようであり、現時点(11月29日の時点)では、警察関係者の当初の思惑、見立ては外れていたのではないかという感がある。

事件に関しての私見

 畜産農家によると、畜舎に侵入しての窃盗は、家畜の窃盗被害だけでなく、豚コレラ鳥インフルエンザなどの防除を無効にしてしまうであろうという点においても、非常に問題が多い行為であるようだ。

 今年(2020年)の夏、群馬県や栃木県、埼玉県、茨城県の各地で複数の畜産農家畜舎から子牛、子豚、鶏が盗まれる事件が相次いだ事件とその後別件で逮捕されている複数のベトナム人グループとの関連性だが、関連性の有無は現時点(11月29日の時点)でははっきりしない。疑わしいのだが警察の捜査(やマスコミ関係者のスクープ等)で逮捕されたベトナム人を家畜窃盗の容疑に追い込むことができていないのか、それとも、逮捕されたベトナム人グループは家畜の窃盗事件の主犯格でも何でもないということなのだろうか。

 限られた情報と知見によるもので、もしかしたら後日まるで見当違いであることが判明するかもしれないが、現時点(11月29日の時点)での私見を述べてみたい。

 日本に長期滞在、在住するベトナム人にはよく知られていることのようであるが、2、3年前ぐらいからか、フェイスブックや(ベトナム人がよく利用しているSNSの)ザロを通じて子豚を販売しているベトナム人がいるようである。

 ベトナム人の知人の方々から、そのような子豚の販売に関わるベトナム人はきちんと日本人の畜産農家や畜産業者から子豚を仕入れているようだ、と聞かされたことがあり、今まではその説明に大して疑問にも思っていなかったのだが、もしかしたらSNSなどを使って子豚を販売をしているベトナム人で家畜窃盗を行っている人もいる(いた)のかもしれない。そして、以前から子豚を販売しているベトナム人で家畜窃盗を行っている者の犯罪行為が今年の夏に露見したという可能性は考えられるのかもしれない。

 ただ、仮に子豚の販売に関わるベトナム人の一部が家畜窃盗に関わっていたということがあったとしても、子豚のように1頭がそれなりの大きさと重さがある家畜に関しては、窃盗する頭数は1回あたり1、2頭からせいぜい数頭程度が限界なのではないかと思われる。

 現時点(11月29日の時点)までのマスコミの報道などで報じられている情報やベトナム人の知人の方々のご意見を参考にするかぎりでは、今夏の北関東の家畜窃盗事件に関連して盗難家畜を解体して流通させる在日ベトナム人の闇ルートが関与しているのだという怪情報は、その在日ベトナム人の闇ルートというものの存在からして相当疑わしいようだ。多頭の盗難家畜を解体し大量の肉を流通させることができる闇ルート、裏ルートのようなものが存在しないとすれば、仮にベトナム人が関わっている家畜盗難事件が起きていたとしても、限定された地域の比較的小規模な窃盗に留まっているのではないかと(私は)考えている。

  今年の夏に起きた家畜窃盗事件の被害の中には1回、または、複数回の窃盗で数十頭、または、数百頭の子豚が盗まれるというようなかなり大規模な盗難事件も発生したようである。盗んだ子豚を別の場所での飼育するにしても、子豚のまま解体し流通させるにしても、そのような相当大規模な盗難に付随して飼育場所や解体場所、巨大冷凍庫や冷蔵庫などが必要とされるように思われ、畜産農家や畜産業者など同業のプロが関わっていないかぎり、相当難しいのではないか。

 あくまでも1つの可能性ではあるが、同じような家畜窃盗事件でも、小規模な窃盗事件と相当大規模な窃盗事件でそれぞれの犯人が異なっているという可能性もあるのではないだろうか。

 それにしても、今回の家畜窃盗の事件は(現時点では)よくわからないことが多い。

 今回ごいっしょいただいたXさんのお話によると、Xさんがお仕事されている地方で野菜農家が栽培しているキャベツが盗難される事件があり、地域柄、外国人が盗んだのではないかというウワサも流れたのだが、逮捕された犯人は地元に住む日本人農家で、相当困窮していたようだった、ということがあったそうだ。そのような地元在住の困窮している畜産農家や畜産業者が犯人である可能性もまったく想定できないというわけではないだろう。

 

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写真02 群馬県太田市、警察・入管による大人数合同捜査が行われた現場2

 

 2020年11月某日、当エントリーに記した事件の現場を見に行った後、群馬県伊勢崎市のベトナム料理店兼カフェに立ち寄り、群馬県邑楽郡大泉町にあるブラジリアンプラザを訪問した。その詳細は下記のエントリーにまとめた。合わせて、お読みいただければ幸いである。

nongdanlife.hatenablog.com

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